今朝の春〜みをつくし料理帖〜/高田郁 ”「隠れ里」あらため「里の白雪」”

みをつくし料理帖」シリーズの4作目、「今朝の春」から”里の白雪”です。


みをつくし料理帖シリーズを読み始めたのは、同僚から
「美味しそうな本があるので、ぜひ。きっと好きですよ」と勧められたからでした。
わたしは、フィクション、ノンフィクションを問わず、周りのひとから
「おいしそうだから」という理由で本を勧められることが多いのです。ありがたいことです(笑)。
そして、同僚の予想通り、すっかりこのシリーズにはまってしまいました。
借りて読んでいたのですが、好きすぎて、全部最初から自分で買ってしまったくらいです。


このシリーズは、一八〇二年(江戸時代中期)、八歳の時に、大洪水による災害で
天涯孤独となった少女・澪が、縁あって大阪の名店「天満一兆庵」に引き取られた事をきっかけに
料理の才能を徐々に開花させつつ、人として、料理人として、成長していく時代小説です。
訳あって舞台は江戸になりますが、様々な困難に見舞われながらも
ひたむきに料理に打ち込む澪や、人情味あふれる澪の周りの人々にまつわる物語。
とにかく波乱万丈な澪の物語にはらはらしたり、ほろりときたりするのですが
なにより、澪の作る料理にうきうきしたり、ほっこりしたり、感動したり、と
毎回出てくる食べものに、とにかく心を奪われる小説なのです。
すでに、「八朔の雪」「花散らしの雨」「想い雲 」「今朝の春」と4作が刊行されています。


そんなわけで、今回は4作目「今朝の春」から、”里の白雪”です。
澪の切り盛りする「つる家」の常連客である、戯作者・清右衛門に作る蕪料理です。


「この寒い中、出向いてやったのだ。不味ければ許さんぞ。」
 澪はそれには応えず、清右衛門の前に膳を置いた。膳の上には蓋物の器がひとつ。箸はなく、漆塗りの匙が添えてあった。
 蓋を取る。泡雪のような何か。上に山葵が載っている。葛あんのために湯気が封じ込まれているらしいが、器に触るととても熱い。清右衛門は匙を手に取り、あんに山葵を溶きながら淡雪を崩した。ゆっくりと口に運ぶ。
「ほう」
 思わず声が漏れた。
 また、ひと匙。淡雪の下に鮃が隠されていた。 



小説では蓋つきの器で出しています。蓋つきで匙で食べるので、茶碗蒸しのような感じだと思います。
が、今回は、お料理が良く見えるように広い口の器にしました。
淡雪の正体は擂り下ろした蕪。蕪を卵白と合わせて、塩をした鮃の上にこんもりとのせ、
15分ほど蒸したものに、だし汁、酒、味醂、塩、醤油に葛でとろみをつけたあんをかけて、
最後に生山葵をちょんとのせます。
物語では鮃を使って出しているのですが、清右衛門が、この料理を食べた後に
訳あって鮃ではなく鯛を使うべきと言っていたので、わたしは鯛で作りました。


まず、蕪を下ろして料理に使うのは初めてでしたが、この料理には
大根では水っぽくなりすぎてしまいそうなので、蕪で大正解です。
卵白を混ぜて蒸すことで、ふわっとした食感になります。初めての感触!
そんなふわふわの蕪に、とろりとしたあんがとてもよく合います。



繊細なお料理に見えて、作るのはあまり難しくないので、実用性のあるレシピです。
お客さんがきたときなんかにも、とてもいいかな、と思います。
葛はなかなか家に置いていないけれど、片栗粉でとろみをつけてもいいし
魚も、鮃でも、鯛でもおいしいし、他のお魚でもいいかもしれません。海老とかでも綺麗かも。
ただ、この物語でもよく言われますが、江戸の味覚は
三白(豆腐、大根、白米)、五白(豆腐、大根、白米、白身魚、白魚)といわれる
これらが、淡白で繊細で、舌にすっきりとした味わいが粋で好まれたそうです。
なので、やはり、蕪に白身魚というのがより、江戸料理を味わうポイントかもしれません。


この料理、最初に澪は「隠れ里」と名付けるのですが、清右衛門により「里の白雪」と名前を変えました。
その辺のいきさつや、くわしい作り方などは、ぜひ小説でお楽しみくださいませ。


想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)