初ものがたり/宮部みゆき”稲荷寿司屋台の稲荷寿司と小田巻き蒸し”



宮部みゆきさんの小説は全部読んでいます。・・・時代物以外。
時代物が嫌いという訳では決してないのですがなぜだったんでしょう。
自分でもよくわからない心理。でも、いよいよ手をつけてみたら、やっぱりおもしろい。
この「初ものがたり」は「本所深川ふしぎ草紙」では脇役だった
岡っ引きの”回向院の茂七”が主役になる物語でその茂七親分が
事件に行き詰ったときにふらりと立ち寄る稲荷寿司の屋台が、とてもいいんです。

どうにも正体の知れない、だがどうやら武家あがりであるらしい親父がひとりで切り回す、小さな屋台である。
(中略)
 ふつう、稲荷寿司の屋台は椀物など出さないものだが、ここではそれも出すし、焼き物、煮物、時には甘いものの類まで揃えてある。おまけに安い。そして、夜遅くまで明かりをつけて商売している。(「白魚の目」p.64)


というわけで、茂七親分が贔屓にしている屋台はやっぱり稲荷寿司がおいしいようで。

 稲荷寿司も、下手な屋台で売っている醤油で煮しめた油揚げに冷や飯を包んだような代物ではなく、ほんのり甘みのある味付けに、固めに炊いた飯の酢がつんときいている。たちまち四つ平らげて、茂七はかわりを頼んだ。(「お勢殺し」p.36)


稲荷寿司の油揚げはお醤油とお砂糖、みりんで色良くしっかり煮ます。
それともう一品、読んでいてとっても気になった小田巻き蒸し。

 親父は鍋のふたをとると、湯気のなかからどんぶりを取り出し、茂七の前に差し出した。
「小田巻き蒸しですよ」
「なんだい、こりゃ」
「茶碗蒸しのなかにうどんを入れてあるんです。あったまって、いいかと思います」
 有り難いと、茂七はどんぶりを引き寄せた。出汁の匂いが鼻をくすぐった。
 熱い小田巻き蒸しを味わっていると、屋台の周囲を、木枯らしが渦を巻いて吹きぬけていった。(「凍る月」p.177)


茶碗蒸しの中に、うどん!これは知りませんでした。
世の中ではメジャーなお料理なんでしょうか。わたしはこの作品で初めて知りました。
どんぶりいっぱいの茶碗蒸しにうどん。ものすごくおいしそう。
なぜ小田巻き蒸しというのか調べたところ苧環(おだまき)とは、
紡いだ麻糸を丸く巻いたもののことでうどんをおだまきに見立てて
そういう名前がついたそうです。
うどんは湯がいて、ほんの少し白だしで下味をつけておきます。
あとは基本的にふつうの茶碗蒸しと同じ手順です。



風邪のときなんかにとってもよさそうです。
あったかくて、消化もいいし、栄養もあって、優しい味。
ちなみに、この「初ものがたり」ですが連載されていた雑誌が廃刊となり、今は休止中。
謎の屋台の親父は一体何者なのか、非常に気になるところです。
親父さんのお料理も楽しみだし、いつか再開してくれるといいのにな。


初ものがたり (新潮文庫)

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