vol.1 Yoshitomo Nara "ceramic works" and more…


ついこのあいだ、幾人かの友だちとお互いのバースディを祝いあった。
ずいぶんのんびりの旧暦のバースディ・パーティ。
奈良美智さんの、陶器の展示があるんだよ」
という話をした直後、ひとりの友だちから手渡されたプレゼントは
奈良さんの「Nobody knows」だった。素敵な偶然に、心が跳ねた。
なにかのフライヤーの裏とか、ノートとか、封筒の裏の
ラフなラクガキみたいな、スケッチやつぶやきや
きっとその時に聴いていた曲の歌詞だとか。
そういう、誰かの視線を意識していない、警戒心のない無意識を
ほんの少し見せてもらえているよう。



そして、新作の陶芸作品を見に行く。奈良美智展 セラミック・ワークス。 
倉庫を通り抜けて、部屋みたいにおっきな業務用のエレベーターが
ごうん、と、うなって、連れて行かれるおかしなギャラリー。
小山登美夫ギャラリー



小さな、大きな、さまざまな、丸くてすべすべの壺。
奈良さんの好きな言葉や歌詞を、あれこれ、静かに、おしゃべりしているみたい。
王様の耳は、ロバの耳!
壺のひとつひとつの口に耳を近づけたら、奈良さんの言葉が聴こえてきそう。
あんなに大きな壺をどんなふうに作ったんだろう。
ずいぶん大変だと思うけれど、それらに描かれた、いつもどおりの、衒わない絵と言葉。
「NEVER センチメンタル」!


階を移ると、真っ白な部屋に、大きな、大きな、像。
3メートルはありそうな、真っ白な像はwhite riot。…clash?
伏し目で、不敵な、おっきな子。


しもぶくれの、かわいらしい顔の像。
土の色を残したそれらの大きな頭像は、以前、タイで見た仏頭を思い出させる。
昔からそこにあるような、大きくて、でも、とても静かな存在感。
唯一名前のつけられた「森子」はやさしくて、静かで、清らかな顔。
深く何かを考えているような、うとうとと眠りについているような。
金色の髪。襟の白い釉薬は、少し地の土色が透けていて
アイシングをしたあまいチョコクッキーみたい。
おいしそうで、やわらかそうで、あたたかそうで、いいにおいがしそう。
触れてみたくなる、すべやかな肌。



翌日は、エディション作品の展示をしているTKG Editions 銀座へ。
夕方はざんざんと雨が降ってきて、ギャラリーに行く道すがら
わたしのスウェードのショートブーツは雨にすっかり濡れて
まるで捨てられて、ぐっしょりと濡れて震える2匹の可哀相な子犬のよう。
なぜ、今日、この子たちを連れてきてしまったのだろう、と
自分も哀しい気持ちになりながらも、2匹の子犬をはげましながら
ようやくギャラリーに辿り着く。


浮世絵みたいな奈良作品。はじめて見たけれど、とてもキュート。
ぬいぐるみや、ちいさな立体作品もあって、ポップでカラフル。
ひと通り眺めて、わたしの濡れた子犬の仲間にと、新たに白い子犬を連れて帰る。
これからは、わたしの電話番。



奈良美智さんの、骨の太い感じが好きです。
骨格のしっかりした感じに惹かれます。
どんな服を着ても、どんな髪型になっても、太っても、痩せても
ああ、あのひとだ、とわかるような。
ドローイングでも、彫刻でも、陶芸でも、ラフスケッチでも、
奈良さんの作品は、色濃く奈良さんをうつしているから。
かわいさや、ポップさの中に、
懐疑的ななにかや、抗うなにかや、厳しさや、タフネスや、
誰かを求めるなにかや、誰をも寄せつけないなにかが、常に、ある。
生まれてきて今までの長い時間をかけてできた
硬くて透きとおった結晶にみたいな、そんななにかになって、多分、あるのだと思う。
そして、彼(と彼の作品)の中にある結晶みたいななにかが
きらり、と光るのを見ると、わたしの心はどうしようもなく、騒めく。
止まっていた足が、何処かへと動き出す。