しゃばけシリーズ ねこのばば/畠中恵 ”雷豆腐”

今、畠中恵さんのしゃばけシリーズにすっかり夢中。
シリーズ一作目の「しゃばけ」は2001年に刊行されていました。
すでに今年の夏に九作目が出ているほどの人気シリーズに遅ればせながら手を出してみました。


舞台は江戸の大店、長崎屋。若だんな一太郎は身体の弱さじゃ天下無双。
そんな一太郎を守る妖(あやかし)たちと、江戸で起こる事件を解決していく物語。
周りにいる妖たちはみんな一太郎が大好きで、その恐ろしい見かけと違って
人情(妖の場合、妖情とでもいうのだろうか)があって、少しとぼけていてかわいらしくて
心温まるエピソードや、ほろりと泣けるエピソードがあったり、とても面白い人情推理帖。


身体が弱くて、ごはんもほんのちょっとしか食べれず、お菓子など食べている若だんなですが
しゃばけシリーズ第三弾「ねこのばば」(こちらは短編集)の「茶巾たまご」の冒頭で
珍しくもりもりと昼ごはんとして食べているのが雷豆腐です。
あんまり珍しくたくさん食べるものだから、お付きの妖(普段は人の姿をしている)が医者を呼ぼうとするくらい(笑)

 江戸一繁華な通町にある長崎屋は、江戸十組の株を持つ大店で、廻船問屋兼薬種問屋だ。若だんな一太郎は、年が明ければ十八になる、大事な跡取り息子であった。
 甘い奉公人と、甘い甘い兄やたちと、更に甘甘甘の両親という、売り物の砂糖を全部集めたよりも極甘な者達に、若だんなはずっと守られ生きてきた。生まれてこの型、朝と昼と晩に、器用にそれぞれ別の病で死にかけるほど、ひ弱だったからだ。
 ところがここ何日かで、急に人が変わったように調子が良くなったのだ。今日も『雷豆腐』――砕いた豆腐を胡麻油で炒って、葱のざく切りと大根下ろしを入れたもの――を、ぺろりと平らげている。古漬けの細切りも、揚げの入ったみそ汁も、旨そうに口にしていた。


というように、簡単なお料理かつ、結構ていねいに作り方まで書いてあったのですが
せっかくなので、江戸時代のレシピなど参考にしてみようと思います。
天明二年(1782年)に醒狂道人と言う人が書いた「豆腐百珍」。100通りの豆腐料理を紹介した料理本です。
尋常品(常に作られる家庭料理)、通品(誰もが知っている簡単な料理なので、品名だけを載せたもの。冷奴など)、
佳品(尋常品より風味や見た目が優れているもの)、奇品(変わっていて意表をついた料理)、
妙品(少し奇品に優るもの)、絶品(妙品より優る、見た目ではなく、豆腐の真味を味わうもの)の
六種類に分けて紹介してあります。
今回作る雷豆腐はこの中の尋常品、つまり一般的な家庭料理にあたるものです。


では、江戸時代のレシピ。

香油(ごまのあぶら)をいりて豆腐をつかみ砕して打入れ直(じき)に醤油をさし調和(かげん)し ○葱白(ひともししろね)のざくざくおろし大根おろし山葵うちこむ ○又はすり山椒もよし ○南京とうふともいふ


小説には書いていなかったけれど、味付けはお醤油でいいんですね。山葵か山椒で風味付け。
今回はふんぱつして生山葵。はじめて買いました。



江戸時代には絹ごし豆腐もすでにあったようですが、くずして火を通す雷豆腐には木綿にしました。
雷豆腐の名前の由来は、胡麻油で炒めるときのバチバチという音からだそうです。
雷というにはちょっとかわいらしい音でしたが。



昔むかしのベストセラーレシピ本で、こうしてお料理を作るのも中々おもしろいもので、
ちなみにこの「豆腐百珍」はよほど人気があったのか続編も出版されています。
あわせて200種類の豆腐料理!江戸っ子は相当お豆腐が好きだったようですね。
お味は、とてもシンプルで、やさしい、素朴な味わいでした。
これなら病弱な若だんなの胃にもやさしいはず。
わたしだったら、もうちょっと塩とか、白胡麻とか、茗荷とかの薬味ももっと入れたくなってしまいますが
今回は江戸のレシピに忠実に。せめて山葵をもう少しきかせてもよかったかな。


ねこのばば しゃばけシリーズ 3

ねこのばば しゃばけシリーズ 3


翻刻 江戸時代料理本集成

翻刻 江戸時代料理本集成