金沢21世紀美術館 「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」


ずっと行ってみたいと思っていた、金沢21世紀美術館に行ってきました。

兼六園のすぐ近く、金沢の中心にあるガラスに囲まれた丸い建物は
2010年にSANAAとしてプリツカー賞を受賞された妹島和世さんと西沢立衛さんによるもの。
点々と作品が配置される広々とした庭の中に、外壁がすべてガラス張りの建物。



建物自体に高さはなく横の広がりがあって、館内に屋根のない庭が配置されていたり、
天井からもたくさん光が入ってくる造りになっているので、
建物の中にいるという感覚がなくなるような、開放的な空間になっています。

自然の光を多くとりいれる建物ならではの、光をテーマにした作品を多く収蔵していました。

ジェームス・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」は、正方形の部屋の天井が四角く切り取られていて
そこから空が見ることができます。




天気や季節によって、見る時間によって、ときおり雲が通り過ぎたり、
さらには見ている間にも刻々と変化していく空の色。二度と同じものは見ることのできない作品。
四角く切り取られた空は、ずっと見ていると、天井に塗られた色のようにも見えてきたり
解放感と閉塞感を同時に感じる、不思議な感覚に陥る空間でした。
自然を取り込むタレルの作品は新潟・妻有の「光の館」で出会って以来、気になる存在で
こうして場所を変えてまた出会えたことがうれしかったです。
もうひとつ常設されているタレルの体験型の作品「ガスワークス」もちょうど最後の一人にすべり込むことができました。
こちらはちょうどひとがすっぽり入ってしまうほどの球体に仰向けのまま送りこまれて
さまざまな色の光に包まれる10分間を体験するもので、
鮮やかな赤や青、やわらかい黄色や紫やピンク色に徐々に変わっていく光と、雷のようなストロボに包まれて
閉塞的な空間にいるはずなのに、外との境界の距離感が無くなって、どんどん空間が広がっていくような感覚。
球体の外に出た時は、うまく感覚が戻らず、なんだかぼうっとしてしまいました。


それからもう一つ、とても見てみたかった、 レアンドロ・エルリッヒの「スイミングプール」。




こどもたちが一生懸命のぞきこんでいる水の下には、人の影。建物の地下に行くと、プールの中に入ることができるんです。


       


透明のガラスの上に、たった10センチ水が張ってあるだけなのに、光や風の加減で
まるで本当に水中にいるような、キラキラした波の模様がプールの底や壁面に映る、とても幻想的な空間。
晴れた日のプールの底から見上げる太陽は、とても美しいものでした。




台湾のアーティスト、マイケル・リンによる加賀友禅と台湾の伝統的な柄をモチーフにしたカラフルな壁画と
その前に置かれた、SANAAとのコラボレート作品の椅子に座って庭を眺めることもできました。

そして、今回見たかった展覧会「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」。



双眼鏡で作品を見るインスタレーションや(うまく焦点が合わせられず、よく見えなかった!)
《Tokyo and My Daughter》という、ひとりの女の子の成長を写した写真。
ああ、ホンマさんのお嬢さんか、かわいいなあ、家族の空間を感じる親密な写真だなあと思って
ほのぼのと見ていたら、実は本当の娘さんではない、という作品を観る固定概念という視点に
やられたっ!と思う展示はホンマさんらしい、なんだか見る側が試されるような創作でした。

雪山での鹿狩りの痕跡を追った《Trails》は、以前東京のギャラリーでも見ましたが
白く天井の高い大きな部屋に展示されているその作品の迫力に圧倒されました。
雪山の白、木々の枝や冷たい川の黒の中に、ひときわ鮮やかな血の赤。
確かに生きていたものが、モノに変わる痕跡。冷やりとした雪に滲む血の温もりを想像して、
心臓を素手で直接つるりと撫でられるような、ざわりと生々しい錯覚に
普段は意識していない、自分の中の血や肉を実感する。少しの恐れと、今確かにここに「在る」という感覚。

《Together》はロサンゼルス周辺の野生動物の生態を調査するプロジェクトを、
ホンマタカシの写真と映像作家マイク・ミルズのテクストで伝える作品で、
ロサンゼルスの山を切り開いて都市化することによって、生活圏を分断されたマウンテンライオンの生態を
その動物の姿を写さず伝えるという手法。見えないものの存在感を写真とテクストで表現していました。
道路や都市で分断した自然に抜け道を作ったり、山を切り開いて作った道路のアスファルトを剥がして
以前の姿に近づけるよう「時計の針を戻す」活動だったり、
やらないよりもやったほうがもちろんいいに決まっているし、自然や野生動物の共存を考えることはとても大切なこと。
だけれど、それ以前にまず(自分を含めた)人間は、自然や地球に好き勝手に手を加えたり
元に戻したりできるような、そんな存在じゃないんだってことに、みんなが「本当に」気付くべきなんだと思いました。
そして、その《Together》の作品が壁に展示してある部屋の床に目を落とすと
ファストフード店を撮ったシリーズ《M》が思いっきり人工的でポップな鮮やかさで並べられていて
壁と床の対比はシニカルさからくるものなのかしら。

コレクション展「目には見えない確かなこと」もとてもおもしろい作品ばかりで
中でもヴィック・ムニーズというアーティストの《ピクチャー・オブ・エアー》シリーズが気に入りました。
これからちょっと注目していきたいアーティストに出会えました。

たっぷり4時間くらい美術館を楽しんで、ランチもパレット型のお皿にのっていたりして
目にもおなかにもうれしいゴハンでした。



☆ ☆ ☆


ずいぶん長い美術館報告になってしまったので、あとはかけあしで金沢お散歩報告を。
市内の移動はバスでした。バスの1日券は500円なので、3回乗れば元がとれるお得なチケットです。



ひがし茶屋街は静かで、ちょっとした路地がいい雰囲気。



蝶の形がかわいい電燈。ゴーシュという喫茶店、かな?残念ながら開店前で中には入れず。



路地に小さな能登半島がいっぱい。



長町武家屋敷跡。



蕎麦屋さんの前で出会った、ごきげん狸とこんにちは。一緒に一杯やりたかったな。



☆ ☆ ☆


そして最後は旅のおいしいもの特集。
近江町市場で食べた能登三昧丼(だったかな?)。寒ブリ!甘エビ!カニ



それから夜は福井へ移動して居酒屋さんで、またまた北陸のおいしいもの。
やっぱり白エビの唐揚げ。



ばい貝のお刺身。とにかくおっきい!



白子の七味焼き。



へしこ。鯖のぬか漬け?みたいなものかしら。この独特の臭みと塩辛さがたまらないんです。
日本酒とへしこの永久反復運動。危険な食べ物です。



☆ ☆ ☆


たった一日しかいなかったとは思えないくらい、充実した北陸の旅でした。
まだ行きたくて行けなかったお店もあったし、今度はまたゆっくり訪れたい街でした。
21世紀美術館へも、きっと、また。

Takashi Homma: Tokyo And My Daughter

Takashi Homma: Tokyo And My Daughter

妹島和世+西沢立衛/SANAA 金沢21世紀美術館

妹島和世+西沢立衛/SANAA 金沢21世紀美術館