池波正太郎のそうざい料理帖/池波正太郎,矢吹申彦”間鴨(あいがも)入りの生卵のぶっかけ飯”

「本に出てくるおいしそうな食べもの」といえばやっぱり池波正太郎先生。
実はあまり読んだことがないのですが、それでもエッセイにしろ、小説にしろ、なんともおいしそう。
池波先生の作品にまつわる料理本なんていうと、それはもうたくさん出ていますし
なんだかわたしが今さら作るのもいかがなものか…と思ったりもしたのですが
どうにもこうにも、食べてみたい料理が出てきたので、今回は勇気を出して(笑)池波作品から。


今回は池波先生がエッセイで書かれている、大石内蔵助が討ち入り前に食べた食事について。
一般的に言われている蕎麦ではなく、実は卵かけごはんだった説です。
しかも、これがまた、ずいぶん豪勢な卵かけごはんなのです。

 元禄15年(西暦1702年)12月14日の吉良邸討ち入り当日。大石内蔵助・主税の父子は、住み暮らしていた日本橋・石町(こくちょう)の小さな借家を出て日本橋・矢の倉の堀部弥兵衛・安兵衛父子の家へ向かった。

 到着した内蔵助が瑠璃紺緞子(るりこんどんす)の着込みに鎖入りの股引をつけ、黒小袖に火事羽織という討ち入りの身支度にかかったとき、安兵衛の親友で、学名高い細井広沢が生卵をたくさんに入れた籠をたずさえて激励に現れた。折しも堀部父子の妻たちは台所で腹ごしらえのための飯を炊き始めていた。

 「ちょうどよい」。用意した鴨肉を焙(あぶ)って小さく切ったのへ、つけ汁をかけまわしておき、一方では大鉢へ生卵をたっぷりと割り込み、味をつけたものの中へ鴨肉ときざんだ葱を入れ、これを炊きたての飯と共に供した。
このほかにかち栗や鴨と菜の吸い物なども出したらしいが、内蔵助をはじめ一同は、何よりも鴨肉入り生卵をかけた温飯(ぬくめし)を大喜びで食べたという。


ただの卵かけごはんも、焙った鴨肉入りだなんて、相当なご馳走の域ですよ。おいしそう過ぎますよ。

まずは鴨のお肉を調達。なかなか売っていないんですよね、鴨肉。銀座松屋のデパ地下で購入しました。



これを、焙る。フライパンで焼くという手もあったのですが、「焙る」にこだわってグリルの直火にしてみました。
レアめがおいしそうなので、表面をかりっと香ばしく、中はジューシィに。
それにつけ汁をかけまわします。つけ汁はしょう油、みりん、少しのお砂糖に白だし



すでにこのままで十分においしそうなんですが、これを小さく刻んで、生卵に味をつけたものに
鴨肉と葱の刻んだものを入れます。卵の味は、鴨にかけたつけ汁を。鴨のあぶらも染みだしているし、きっとおいしいはず。
では、いざ、炊きたてごはんにかけて完成!



うーん、なんて贅沢な卵かけごはん!もうほんと、ごちそうです。



香ばしくて、繊維のしっかりした噛みごたえのある合鴨とたっぷりの卵。
親子丼とも違うけれど、なんとなく、それに近いものもあるような感じです。
かなりボリュームたっぷりの、丼ものっぽい卵かけごはんです。

やっぱり、討入り前にはお蕎麦より、鴨入りの卵かけごはんのほうが、絶対に力はつきそうです。
あんまり絵にはならないかもしれないですけれどね。

現代(いま)から約三百年ほど前の日本人が、生卵をこのようにして食べていたことがわかったのも、私が時代小説を書きはじめてからのことだ。いまも私は、大石内蔵助が食べたようにして間鴨と生卵を食べる。だれにでもできるし、なかなかにうまい。


とは、池波先生のお言葉。そう、なかなかにおいしいし、誰にでもできるのです。
なんだかちょっと文豪気分になれた、贅沢な簡単料理でした。もちろん、お酒と一緒にいただきましたよ。


池波正太郎のそうざい料理帖 (深夜倶楽部)

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