考えるウォークマン/三田誠広”ブラックベリーのジャム”

ブレーズ・パスカルジョン・レノンに捧げる

この作品は考えながら読むこと

もしも音楽が必要なら
ヘッドフォンでビートルズ

この作品は、永遠に終わらない

以下はその果てのない物語の
ささやかな序章にすぎない


1985年発行の三田誠広さんの小説です。現在は残念ながら絶版になっています。
わたしは他に何冊か読んだ三田さんの著作の中では、1番好きなのだけれど。


わたしがこの本を手にした時は確か大学生で、その時すでに絶版でした。
「青臭くて、説教くさいところもあるけれど、よかったら読んでみて」
古書店で探してくれて、贈られた本でした。


読む時にはビートルズを、と言っているほどで、各章のタイトルが
“THE FOOL ON THE HILL”とか、“MR.MOONLIGHT”とか“THERE WILL BE AN ANSWER” とか
ビートルズの曲名や歌詞にちなんだものになっています。


「歩く人」と呼ばれる小説家の父と、その息子の「ぼく」のところに
立ち寄る、様々なものを抱える、様々な人との、問答のような会話。
あるいは会話という形をした、自問自答。


このブラックベリーが出てくる話は”STRAWBERRY FIELDS FOREVER”というタイトルの章。
芸術家を目指し、才能と啓示を与えられた「選ばれた人間」でなければならないと願ってやまず
それでもやはり、「ふつうの人間」なのだと確信するにいたったひとの話。

「ぼくは、ブラックベリーが好きだ」
と、ぼくが口をはさんだ。「ふつうの人」は穏やかな笑顔をこちらに向けて言った。
「それはめずらしいな。子供ってものは、たいていイチゴジャムが好きなんだけどね。どうしてきみはブラックベリーが好きなんだい?」
「だって、色がきれいだもの」
なぜかはわからなかったけれど「ふつうの人」はにわかに息がつまったようになって、じっと僕の顔を見つめていた。それから、小さく息をつき、真剣な顔つきで言った。
「坊や、それはとても素晴らしいことだよ。赤いイチゴより黒いイチゴの方がきれいに見えるというのはね。その目を大切にすることだ。きみは、もしかしたら、選ばれているのかもしれない」


歩く人と、ふつうの人と、ぼくが一緒にお茶を飲むシーンがあって
そのお茶にジャムを入れて飲むのだけれど、そのジャムがラズベリージャムでした。
わたしはこの黒いイチゴの会話が印象に残っていて、
すっかりブラックベリージャムだと思い込んでいました。
だから、作中にブラックベリーのジャムは登場しません。
でも、やっぱりずっとイメージしていたブラックベリージャムを食べてみたかったので、作ってみました。


材料はブラックベリーと砂糖だけ。ジャムにする場合、基本はジャムにする果実のだいたい50%が基本。
それ以上減らすと長期保存には向きません。
すぐに食べきってしまう場合には、もっと減らして素材の甘さを活かしてもいいと思います。
今回はブラックベリーの味を楽しみたかったので40%まで減らしました。
ブラックベリーと砂糖を鍋に入れて、中火にかけ、あくをすくったあと、弱火でさらに2〜30分煮ます。
ブラックベリーはイチゴよりずっと種が大きくて、そのままだと舌触りが悪いので
この後、種を漉す作業をします。ここで大分かさが減ってしまいます。
煮沸消毒したビンに詰めてできあがりです。



色はブルーベリージャムに似た感じの、とても深い赤黒っぽい色のジャムになりました。
ブラックベリーペクチン(ジャムが固まる成分)が多いようで冷えると結構固くなります。

そこでまた「ふつうの人」はティーカップを口に運んだ。それからカップの底にたまっているジャムをスプーンでかきまぜ、残りのお茶とともにひといきに飲みほした。



ブラックベリーのジャムは、甘いけれど酸味が強くて、イチゴジャムよりも野性味がありました。


われわれの言葉で語れ

つまり、自分の言葉じゃなくて、われわれの言葉で語るということ。


言葉を紡ぐことの、意味。
わたしの言葉は、あなたに、誰かに、届いているのかな。



考えるウォークマン

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