植物図鑑/有川浩”フキごはんとノビルのパスタ”


少し前に、同じく「植物図鑑」のフキ味噌を作りましたが、今回はフキとノビルのメニューです。


フキごはんは、これもまたちょっと前にみをつくし料理帖シリーズ「花散らしの雨」の蕗ご飯を作りました。
今、ちょうど蕗が取れる時期で、しょっちゅういただくので、ここぞとばかりに作っています。
ただ、前回の蕗ご飯は炊き込みご飯でしたが、今回は下処理をしたフキをごはんに混ぜ込むだけの簡単ごはん。

(ボウルとしゃもじを差し出して)
「使う道具はこんだけ。はい、ボウルの中にこれ適当に入れて」
 差し出されたのは、最初にフキを始末したときに小口切りになってタッパーにおさまっていた分である。
「ど、どれくらい?」
「んー、軽く一摑み」
 とするとちょうどタッパーの半分くらいだ。恐る恐る小口切りになったフキを摑み、ボウルの中に入れる。
 はい、次は塩振って。と塩の入れ物が目の前に開けられる。これもイツキの指示のまま、付属の匙に軽く半分ほどを振る。


「はい、塩とフキを混ぜて混ぜてー」
 金のボウルとプラスチックのしゃもじがかちゃかちゃ音を立てる。
「はい、適当にごはん入れて」
イツキが炊飯器を開けると仕掛けた米が炊きあがっていた。
「適当にって……」
「二合炊いたから三分の二くらい入れてみて」
言われるままの量を入れてまた混ぜる。
「フキが全体に混ざるようにざっくりね。……はいストップ。フキの混ぜごはん、完成ー」
「え、これで?」


フキのほろ苦さと軽い塩だけの単純な、しかし単純なだけに飽きの来ない味だった。


苦さを美味しく感じられるって、味覚が大人になったんだなあ、と思います。
で、春ならではの植物って、アクが強かったり苦味が強かったりするものが多くて、
でもそのほろ苦さが自分にとって「春だなあ」と感じさせる味になってきました。
前回のフキの炊き込みご飯は、フキの香りがふんわりと優しく香る感じでしたが
こちらの混ぜご飯は、よりフキのほろ苦さを感じることができて、これはこれで
フキそのものの味が楽しめるごはんです。


そしてもうひとつ、ノビルのパスタ。ノビルをパスタに!ととっても興味シンシンで
これは読んでいて、試してみたいなあ、と思ったメニューでした。
でもノビル、「おせん」で使った時にも書きましたが、なかなか手に入らなくなっちゃったんですよね。
小説の中では、ノビルとセイヨウカラシナのパスタなんですが、セイヨウカラシナが手に入らず、
ちょうど知人の畑で採れたものをいただいたアシタバで代用しました。全然、違うものなのですが…。


「切り方は?」
「まず球根切って」
言われるままに切り落とした球根はイツキがザルの中に回収した。
「それから残った葉っぱを適当に四、五cmくらいに」


ノビルは買ってきたものなのですが、なんだか葉っぱの部分が固い気がしました。
摘んでいたノビルは、もっとニラっぽい感じのやわらかい葉っぱだった気がしていたのですが
買ってきたものは、葉っぱというよりむしろ茎くらいの固さ。
でも、ニンニクの芽みたいな感じで、これはこれで美味しそう。
まずはパスタを茹でます。

 パスタの面倒を見終えたイツキが手早くベーコンを切り、空いたコンロにフライパンをかける。ベーコンを先に炒め、出た脂で炒めたのはノビルだ。球根を先に、次いで細長い葉を。最後に投入されたのはアク抜きされたセイヨウカラシナ


カラシナの代わりのアシタバは、下処理なしで入れちゃいました。

 片手で何度かフライパンを返して具を混ぜ合わせ、ぐつぐつ煮立っている隣の中華鍋からお玉でパスタの茹で汁をすくってかける。これでパスタのソースは完成らしい。


ここに茹で上がったパスタを湯切りして混ぜれば完成です。


 味付けは基本的にパスタの茹で汁だけだ。それなのにそれだけの味ではない。ベーコンの甘さと塩気が予想の範疇だったが、セイヨウカラシナのほろ苦さとノビルの甘さ!特に球根部分をカリッと噛み砕いた食感と甘い滋味は「アレみたいな」などと説明できるものがない。
(中略)
「味だけならネギとか近いんだろうけど……球根の食感が加わるからなぁ」
「ああそうか、ネギ」


ノビルを買ったときに、ノビルの説明書きに「和製エシャロット」みたいなことが書いてありました。
食べる前は、そうかそんな感じかも、と思っていたのですが、実際食べてみるとそんなに辛味はありませんでした。
そう、ちょうどネギくらいの感じ。マイルドな辛味でした。コリッとしたノビルの食感は、パスタに新鮮なアクセント。
味はエシャロットや島らっきょうに近い感じかな?と思っていたので、こんなに優しい味だったとは。
アシタバもほんのり苦味があって、セイヨウカラシナとは違うけれど、また別のしっかりとした
主張する葉物で、これはこれで、美味しかったです。


近所で採れる新鮮で美味しい野菜をたっぷり使って、春を満喫するごはん。
素朴な材料を使った、素朴な料理だけど、こういうものに、贅沢だなあと感じるようになってきました。
旬の野菜を楽しめるごはん。こういうものを食べて、目だけでなく、舌でも季節を楽しんでいきたいものです。


植物図鑑

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