/ダンス・ダンス・ダンス”ホウレンソウとちりめんじゃこの和えもの”
僕は鞄を整理して旅行の領収書を集め、牧村拓に請求するものと僕が自分で払うものとに分けた。
(中略)
清算を終えると、ホウレンソウを茹でてちりめんじゃこと混ぜ、軽く酢を振って、それをつまみにキリンの黒ビールを飲んだ。そして佐藤春夫の短編を久しぶりにゆっくりと読み返してみた。何ということもなく気持のよい春の宵だった。夕暮れの青が透明な刷毛で重ね塗りされるみたいに一段また一段と濃くなり、夜の闇に変わっていった。
ユキとのハワイ旅行から帰ってきた「僕」がひとりで黒ビールを飲むときに作ったおつまみ。
ベルギーのビールだったり、濃くて少し甘みのあるビールには、酢のものが合うのかな、と思います。
ニシンの酢漬けだったり、シュークルートだったり。
散々ハワイで飲み食いした後には、こんな肴でさっぱりと飲みたくなるのかもしれない。
キリンの黒ビールが手に入らなかったので、ギネスビール。
合える酢は、シェリービネガーを。小説ではただの「酢」と書いてあったけれど
黒ビールを常備していて、あり合わせのつまみにもサラミやワサビ漬けが出てくる家なのだから
きっと酢だって、普通のお酢だけじゃなくて、バルサミコ酢や、シェリービネガーや
ワインビネガーなんかも置いてあるに違いない、と思うんです。
それで、鋭すぎる酸っぱさより、もうちょっと甘みやコクがある酢の方が
黒ビールの肴には合うんじゃないかなと思いました。
実際、シェリービネガーとちりめんじゃこだけでもさっぱりと美味しいのですが
ほんの少し、お塩を足してもよい感じがします。
ちりめんじゃこは、フライパンでひと手間。から炒りして、かりっと香ばしく。
春の夜の描写が、たまらなく素敵。こんな夜に濃くて甘いビールを飲みながら
ゆっくり佐藤春夫の短編など読んで過ごすのは、何ということもないかもしれないけれど
それはきっと、とても気持のよい春の宵でしょう。
佐藤春夫の短編といえば「病める薔薇」くらいしか読んだことがないけれど
一体、どんな短編が似合う夜だったろう。
ユキの父親である牧村拓とのやりとりが、なんとも好きです。「文化的雪かき」の使用許可について。
くすっ、と笑ってしまう。こんな作家、いるんだろうなあ。
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