食堂かたつむり/小川 糸 ”ぶどうパンで作る洋ナシのサンドイッチと紅茶”

以前にジュテームスープを作った「食堂かたつむり」ですが、今回はフルーツサンド。
このお料理のエピソードは少しかなしくなってしまうもので、
結局このフルーツサンドは物語の中で、お客さんに食べてもらうことはなかったのだけど
とてもおいしそうだなあ、と想像しながら読みました。


このサンドイッチは洋ナシのフルーツサンドなのですが、映画化されたときは
イチジクで作られていました。イチジクも似たような食感だし、果汁がたっぷりでおいしそう。
だけど、今回は小説のオリジナルレシピに基づいて作ってみました。


ぶどうパンを焼くのは初めてでした。レシピはネットでいろいろと探して、少々アレンジ。
パン生地は強力粉300g、ドライイースト6g、砂糖15g、塩4g、スキムミルク10g、
水190cc、バター20g。
水はぬるま湯くらいにしておいて、その分量分からドライイーストを少し溶いておきます。
冬は本当に発酵しにくいので、バスタオルでぐるぐる巻きにしてストーブの前にしばし放置。



パンに入れるレーズンはお湯やラム酒などにひたしてやわらかくしておいたりするのですが、
今回は洋ナシのフルーツサンド。なのでこれを使わない手はない!ってことで、お手製の洋ナシ酒にひたしました。
これで、パンと洋ナシの相性もばっちりになること間違いなし。



レーズンは、お酒ではなくても、お湯などである程度ふやかしておかないと
パン生地に混ぜた時にパン生地の水分を吸ってしまって、パンがパサパサになってしまうそうなので
これは必ずやっておいた方がいいようですよ。お酒が好きなら、ラムでも、ブランデーでも。



180℃で20分。でもいまいち色が薄かったので追加で200℃で5分ほど焼きました。
でも上側だけこんがりして、他はあんまり色がつきませんでした。
だけど、今回はサンドイッチだし、ミミをおとす必要もなくなったかな、と思ったのでこれでOK。
思ったよりかなりしっとりとしてふわふわのパンができました。初めてにしては上出来かな?
では小説どおり、サンドイッチに。

 パンに汁気が染み込むのを防ぐのと味に含みを持たせるため、パンの表面に湯煎にかけたミルクチョコレートを薄く塗る。チョコレートは、ビターよりもミルクの方がクリームや果物との相性がいい。一口齧ると、ふわふわのパンの間から果物のジュースがじゅわーっと溢れ、噛んでいるうちにかすかなチョコレート味が口に広がる。
 生クリームとヨーグルトのクリームを合わせ、そこにはちみつを垂らして味をととのえた。
(中略)
 最後に、到着予定時間ぎりぎりに洋ナシの皮をむき、薄く切ってから、クリームの塗ってあるパンに挟んでサンドイッチにする。食べやすい大きさにカットして皿の上に並べると、食パンの純白、クリームの乳白色、洋ナシの翡翠がかった白がはっとするような見事なグラデーションを奏で、レーズンの水玉模様がかわいいアクセントになっていた。


   


クリームの白と洋ナシの翡翠色、というところにとてもひかれてやっぱり洋ナシで作ったのですが
なかなか、美しさが伝わる写真が撮れなくて…ここまでで断念してしまいました。
生クリームに合わせるヨーグルトは、茶漉しなどにクッキングペーパーを敷いた上にヨーグルトを乗せて
一晩おいたものを使いました。こうすると、ヨーグルトの水分がかなり抜けます。
わたしはこれにマヨネーズを合わせてディップやにも使ったりします。マヨネーズだけのものと違って
さっぱりとするし、カロリーもおさえられますよ。


そして、作っていて、洋ナシは苺のように酸味もないし、あまり主張をしすぎない繊細な味なのに、
パンには濃い味のぶどうが入っているし、クリームもはちみつで甘さを加えるし、パンにはチョコレートも塗るし
洋ナシの味が負けてしまうのじゃないかと少し心配していたのですが、全然心配無用でした。
洋ナシの持つ力を甘く見ていました。太陽をたっぷり浴びて育った果物の力は、すごい。
しっとりしたぶどうパンに、さっぱりとした甘さのクリームと、チョコレートの風味、それに負けない
とにかく果汁たっぷりのさわやかな洋ナシの甘さがとってもこのサンドイッチを上品なものにしてくれました。



それから、このサンドイッチに合わせる紅茶は、ラプサンスーチョン。

紅茶は、ラプサンスーチョンという、スパイシーでちょっと癖のあるお茶にした。フルーツサンドがとても儚げな味なので、メリハリをつける意味でもそのお茶がよかった。クリームが重たく感じられても、ラプサンスーチョンを飲めば口の中や喉をすっきりさせることができる。



この、はじめて聞く呪文のような名前の紅茶、ラプサンスーチョンはちょっと奮発して、
銀座のマリアージュフレールで買いました。
漢字では「正山小種」と書く中国の紅茶です。茶葉が燻されているので、独特なスモーキーな香りがして
今まで飲んだことのない、本当におもしろい味の紅茶です。肉料理なんかに合わせても飲まれるようです。
口がすっきりとするんですね。
それと、この独特の煙香と合うのか、シングルモルトと一緒に味わうのもおいしいのだそうです。なるほど。


今まで食べた中で、一番贅沢で一番手のかかるサンドイッチでした。
でも、とってもおいしいですので、ぜひお試しくださいませ。夢のようなフルーツサンドです。


食堂かたつむり

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