植物図鑑/有川浩”ばっけ味噌こと、フキ味噌”


有川浩さんの「植物図鑑」からフキ味噌です。

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」
「咬みません。躾のできたよい子です」


ある日の飲み会の帰り道、道端に落ちていた(!)すてきな男の子との
こんな突拍子もない出会いから始まってしまう力技!
有川浩さんは「図書館戦争」でも突拍子もない力技で物語をぐいっと立ち上げてしまって
言ってしまえば結構ハイテンションなラブコメディだったりもするんだけど、
それで、わたしはその手の小説が実は苦手だったりするのだけれど、
図書館戦争」では図書館のこと、「植物図鑑」では植物のことを
ディテールにこだわってこだわって、そのちょっとオタク気質な感じが
好きなところなのかなあ、と思いました。選ぶ題材もわたし好みなところなのです。


「植物図鑑」はある日、突然出会った、とっても植物に詳しい男の子と
なぜか一緒に住むことになった女の子のふたりが、お散歩しながら
春や夏や秋の近所の野に咲く草花を摘んで、食べたり、飾ったりするしている日常のお話。
その日のおかずになる草花を摘んで歩くふたりが、なんともほほえましくて、
わたしも子どもの頃、近所の土手でつくしやのびる、よもぎなんかも摘んだりしたなあ、と
いろいろ思い出しました。今はなかなか、そんな場所は身近になくて、少し残念です。


今回は”ばっけ味噌”ことフキ味噌。フキノトウのお味噌です。
フキノトウは摘んだことがなかったなあ。
物語ではふたりで土手で摘むのだけど、わたしはお店で購入しました。岩手県フキノトウ



ちいさくてまるくて、鮮やかな黄緑色が春を感じさせる、かわいいかたちだなあと思います。

イツキは茹でこぼしたフキノトウを水にさらし、更に力任せに絞って水気を切った。そうしてソフトボール大になった緑色のかたまりをみじん切りにし、そのみじん切りを更にごま油で炒め、―愛らしいフキノトウの面影はもはやカケラも残っていない。
 そこへ持ってきてイツキが投入したのは味噌である。しかもフキノトウと同量、つまりソフトボール大の。さらに砂糖とみりんと酒、一味唐辛子が投入され―
「もう緑ですらないんですけど!」
 中華鍋の中にはぐつぐつと沸騰する焦げ茶色の液体があるばかりである。それが煮詰まり粘度が高まったころ、ようやくイツキは火を止めた。


作り方はばっちり。なので、この通りに。
フキノトウを水にさらす時、苦味が苦手なひとは結構長めに水にさらした方がいいです。
わたしはフキノトウの苦味を残したかったので20分くらいしか水にさらしていないです。
作中でフキノトウの天ぷらも出てくるのですが、もう苦い、苦い、の大騒ぎで食べています(笑)
わたしはおいしいなあ、と思うのですけど。でもやっぱり2個くらいでいいですけれどもね。
さて、水にさらしてみじん切りにする前に、他の材料を用意しておきます。ここ、ポイントです。
味噌の量はフキノトウと同じくらい。米味噌を使いました。
砂糖、みりん、酒はそれぞれ同量くらいで、それぞれ味噌の量の7割くらいだったかな。
使う味噌の味にもよるし、甘めがよければ砂糖を多めに加減したり
味噌の塩気とフキノトウの苦味を活かしたかったらお砂糖は少なめ、とか。
なぜ先に材料を計るかと言うと、フキノトウは刻んでいくそばから黒ずんでいくんです。
切っているまな板がどんどん黒くなってくるんです。アクが強いんですね。
だから、フキノトウはみじん切りにしたらすぐにごま油で炒めます。
作中では一味唐辛子を入れていますが、わたしはここで唐辛子を入れました。



あとは最初に計っておいた味噌、砂糖、みりん、お酒を入れて練りながら煮詰めるだけです。
冷えると固くなるので、ちょっとやわらかいかな?くらいで火を止めた方がいいと思います。

イツキが炒めるのに使っていた木べらを吹いて冷まし、さやかの口元に突き出した。
「舐めてみ」
恐る恐る―舐めてみる。下に広がった味は、ほろ苦い風味を含んだ甘味噌だった。
「…白いごはん欲しい。ばっけ味噌ってこれ?」


ちなみに秋田、岩手、宮城あたりでは、フキノトウを「ばっけ」と呼ぶのだそうです。
雪の深い地方では、フキノトウは春の訪れを報せてくれる植物なのでしょうね。



炊きたてごはんに乗せて食べるのが、やっぱり一番おいしいのかなあ。
ごはんの、ほわっとした湯気に春の香りが混じって、これだけで美味しいです。
焼きおにぎりにしてもいいし、里芋をほっこり焼いて、その上に乗せて食べたらきっと美味しいと思うんです。
今度やってみよう。油揚げとか、厚揚げなんかとも相性がよさそう。
胡瓜とかにつけたりしてもおいしそう。ナスのフキ味噌田楽とかも、日本酒に合いそう。
と、万能味噌なので、ぜひぜひ、お試しくださいませ。
季節的にはまだもう少し、フキノトウもお店にありそうですよ。
本当は、自分で摘んだフキノトウで作るのが、やっぱりなによりおいしいと思うのでしょうね。


植物図鑑

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