/村上朝日堂はいほー! ”『うさぎ亭』のコロッケ定食”
村上春樹さんのエッセイ、「村上朝日堂はいほー!」に出てくる
「『うさぎ亭』主人」の章から、うさぎ亭のコロッケ定食を作ってみました。
村上小説を読み始めて、とにかく長編を読み漁って
そのあとに短編を読んで、最後に読み始めたのがエッセイでした。
村上さんの、嘘かほんとかわからない小編がとても好きです。
で、この「うさぎ亭」のお話も、嘘かほんとかわからない
もしかしたら、うさぎ亭はこの東京のどこかに存在するんじゃないか、などと
ついつい期待してしまうのです。それくらいに、描写が詳細かつ魅力的。
さて、村上さん曰く、
『うさぎ亭』には二種類の料理しかない。ひとつは日替わり定食であり、もうひとつはコロッケ定食である。どちらにもしじみの味噌汁とどんぶり一杯のキャベツのせんぎりサラダがついてくるのだが、これが滅法うまい。それからぬかを洗いおとしたばかりの漬けものもたっぷりついている。いりたての胡麻をまぶしたホウレン草のおひたしとか、スパゲティーときのこのあえものなんかが小鉢に盛られて出てくる。生きているみたいにピチピチとしたスパゲティーと歯ごたえのある新鮮なきのこの酢味噌あえで、そのへんによくある定食やの間に合わせのつけあわせとはちょっとものがちがう。
ということなので、コロッケと、しじみの味噌汁、どんぶり一杯のキャベツ、
それからぬか漬けと、小鉢にはスパゲティーときのこのあえもの、が今日のコロッケ定食のメニューです。
スパゲティーときのこの酢味噌あえは、思いもよらない取り合わせなので
作ってみないとわからない!というのが正直なところで
スパゲティーは細めのものを、半分に折って時間通りに茹でました。
スパゲティーが茹であがるちょっと前に、しめじも入れて一緒に茹でてしまいます。
味付けは酢、味噌、砂糖、みりん。
食べるまで冷蔵庫で冷やしておきます。
この取り合わせ、どうなのかなあ、と半信半疑でしたが
意外なことに、なかなかどうしておいしい添え物になりました。
スパゲティーの添え物というと、ナポリタン風かマヨネーズ合えが
定番になりがちですが、この和風のスパゲティーもなかなか大人味でおいしいです。
そして、メインのコロッケ。
『うさぎ亭』のコロッケのうまさを文章で表現するのは至難の業である。皿にはかなり大きめのコロッケが二個盛られて出てくるが、無数のパン粉が外に向けてピッピッとはじけるように粒立ち、油がしゅうしゅうと音を立てて内側にしみこんでいくのが目に見える。これはもう芸術品と言ってもさしつかえないだろう。
うう、ただでさえ揚げものが苦手なわたしにはハードルが高いです。
でもパン粉については、食パンをミキサーにかけて生パン粉を作りました。
粗めにしたつもりですが、それでもまだ、細かすぎたかなと思います。
もうちょっと粗くてもよかったな。
ころもがかりっという音を立て、中のポテトと牛肉ははふはふととろけるように熱い。ポテトと牛肉以外には何も入っていない。思わず大地に頬ずりしたくなるようなにおいたつじゃが芋―これは決してオーバーな表現ではない―と、主人が厳選して仕入れ大きな包丁でみじんに切った牛肉である。
牛肉をひき肉ではなくて、切り落としのお肉などを包丁で粗めに切る、というところがポイントです。
これは結構思い切ってかなり粗目で良いようです。
わたしはまだまだ思い切りが足りなかったようで、もうちょっとお肉っぽさが必要でした。
ソースは大きな壺に入っており、スプーンでそれをくんでかけるわけだが、このソースがまた実にうまい。中にきざんだ絵シャロットが入っていて、ちょっと形容のしようのない不思議な味だが、決して味があとに残らないし、食べ飽きない。
ソースも試してみましたが、これはおいしいです。本当においしい!
刻んだエシャロットがソースの濃さをとてもさっぱりと感じさせてくれて、大人っぽいコロッケになります。
でも村上さんも書いているように、一個はそのまま、もう一個はソースをかけて食べる
というのがコロッケ定食をより楽しめる方法かもしれません。
ところで余談ですが、「エシャロット」と「エシャレット」、違うものって知っていましたか?
友だちに教えてもらったのですが、エシャロットは西洋の野菜で、
エシャレットは日本で作られた、要はちいさならっきょうです。
らっきょうを大きくなる前に収穫したものがエシャレット。
なので、両者は全くの別物なわけです。
今回エシャロットを買いに行ったのですが、スーパーの野菜の棚に「エシャロット」という表示があったので
買おうと思ったら、商品の袋には「エシャレット」と印字してありました(笑)。
スーパーも混乱しているようです。
両方を食べ比べたことがないので、どう違うのか、いまいちよくわかりませんが。
いちから作ったコロッケはやっぱりおいしかったのですが
村上さんをして「文章で表現するのは至難の業」と言わしめるほどのコロッケを
ぜひとも食べてみたいもので、いつかうさぎ亭を探しあててみたいものです。
などと思っていたら、とあるところに住む村上さん好きの友人から、こんな自慢げな画像が届きました。
これはなんとか、おだてて、なだめて、すかして、場所を聞き出さなくては。
表札にそっと「うさぎ亭」と掲げていた主人が、ちょっと気が変わって
看板を出すことにしたのかもしれない。うん、そうかもしれない。
思わず大地に頬ずりしたくなるようなコロッケを食べられるのも、もしかしたら夢ではないかもしれない。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
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